発表! 【勝手に竹内雄紀賞】2019年上半期

悠木ジョシのイラスト

こんにちは。小説家の竹内雄紀です。名称通り私が勝手に選ぶ「竹内雄紀賞」の発表の時期になりました。……というか、予定よりほぼ2ヵ月遅れているんですけどね(笑)。

今まで自分のフェイスブックページでのみ発表していたのですが、良書をもっと多くの方々に知っていただきたいということで、海外書き人クラブの公式ブログ「世界のコトなら」に発表の場を移すことになりました。

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受賞者にとっては名誉にもならなければ、うれしくもない、そもそも通知もしないし(連絡先なんて知らない)、もちろん賞金もないというまさに「俺さ東京さ行ぐだ」レベルのないない尽くしの賞ですが、小説好きのみなさんにぜひ読んでいただきたい本を紹介したいと思って続けています。

まずはノミネート作品の発表から(私の読了順です)。

  • 『二千七百の夏と冬』荻原浩(双葉文庫)
  • 『月島慕情』浅田次郎(文春文庫)
  • 『Iターン』福澤徹三(文春文庫)
  • 『おしまいのデート』瀬尾まいこ(集英社文庫)
  • 『代償』伊岡瞬(角川文庫)

 

次に各ノミネート作品の読後のメモです。

『二千七百の夏と冬』(上・下巻)荻原浩(双葉文庫)

紀元前七世紀、谷の村に住むピナイという十六歳の縄文人の少年ウルクが主人公。父を亡くして母と五歳の弟と暮らす一家の大黒柱だが、背も低く体も華奢でまだ精通も経験していないため、集団の狩りの主要メンバーにもなれず。

だがある日、ふとしたことから足を踏み入れた禁忌の場所である南の森で、カヒィという名の不思議な少女と会う。じつは彼女は渡来系弥生人のため、言葉も姿かたちも違う

その夜のカヒィの夢で初めての精通を経験するが、翌朝ウルクの火熾しの道具とともにカヒィは消えていた。

禁忌を侵したウルクはピナイから追放されるが、暮らしを豊かにすると言われる「コーミー(米)」を持ってくれば帰還を許されるという条件がつく。

途中、因縁のヒグマをしとめたウルクは世界の大きさを知りながら少しずつ大人になり、やがて田んぼを持ち、王がいる「フジミクニ」に到着。そこにはカヒィがいたが、すぐにウルクはイノシシの世話をする奴隷にされる。

お互いの気持ちを確かめ合った二人は祭りの夜に結ばれる。だがカヒィは王の第三夫人にされることが決まっている。カヒィを連れ出して逃げることにしたウルクだが……。

第五回山田風太郎賞受賞作。

 

『月島慕情』浅田次郎(文春文庫)

恋する男に見受けされることが決まった花魁の女。結婚後住むことになる月島にこっそりと赴いたところ、彼には妻子があり縁切りをして自分を迎え入れることにしたことを知らされ身を引く「月島慕情」。

もう十年以上も前に、家庭内暴力が原因で離婚した夫の焼香に行き、そのとき捨てた息子と出会うことになる「供え物」。

直木賞受賞の『鉄道員』にも勝るとも劣らない珠玉の短編集

 

『Iターン』福澤徹三(文春文庫)

中堅広告代理店の冴えない中年の営業マンが、部下たった2名の九州の支店に島流し。支店長の肩書になったが、支店もろともリストラしようという会社の意図がよく見える。

ダメダメな印刷屋を切ろうとして、最後のつもりで仕事を発注したら、なんと電話番号をわざと間違えて納品。その広告主のサラ金も、間違えた電話番号が載った風俗店も、ヤクザが経営する店で、損害の二百万円の自己補填を皮切りにどんどん掠め取られていく絶体絶命のピンチ……。

もちろん最後は大団円なのだが、「主人公をピンチの連続にする」というのが小説の鉄則だということを改めて思い知らされた。

 

『おしまいのデート』瀬尾まいこ(集英社文庫)

短編集。最初の二編のおじいちゃんのすっとぼけた感じがなかなかいい。

推理もない、こういう普通の小説がもっと読まれてほしい

 

『代償』伊岡瞬(角川文庫)

小学五年生の主人公・圭輔のところに、突然やってくるようになった遠戚のおばさんと同い年の達也。裏がありそうで最初から嫌だったが、父がキャンプに誘ったのを機会に、しょっちょうわが家に入り浸るようになる。そして冬休み。両親が大阪に出張に行くというので半ば強引に達也を預けられる。そしてある日、家が燃え、二人は助かったが、睡眠薬を飲んでいたという両親は死ぬ

そして圭輔は達也の家に預けられるのだが、ほぼ奴隷のような状態となる。

だが中学三年のときにまわりに助けがあって、その家から救い出され、第二部では弁護士になっている。そこへなんと達也から弁護依頼が来る。

帯の裏にある「こんなにムカつく悪役がかつていただろうか。許せない、イライラする。なのに読むのをやめられない‼」というのはまさにそのとおりだ。

最後に達也にはそれなりに「代償」が訪れるが……かといって読後がスッキリするわけではない。いわゆる「嫌ミス」。読んで得をするのかというとわからないが、読んでいる間にやめられなくなるのは確かだ。

 

以上、5つがノミネート作品です。

そしていよいよ【2019年上半期の勝手に竹内雄紀賞】受賞作の発表です! それは……。

 

受賞作 『二千七百の夏と冬』荻原浩(双葉文庫)

どの作品も素晴らしかったのですが、この作品を受賞作に選んだ理由。それは「とにかく新しかったから」です。

いや、舞台は縄文と弥生の境目。『ジェラシックパーク』のような「タイムスリップ」物を除けば小説の題材にするにはもしかしたら最古に近いのですが(マンガとアニメでは『ギャートルズ』がありますが)、「いやいやいや、この時代を舞台にしますか……」と度肝を抜かれました。

そしてそんなふうに自分とは縁もゆかりもない時代なのに、読み進むにつれて自分があたかもこの物語の主人公で、縄文時代を生き抜いているような感覚に引き込まれていくのです! いや、優れた小説っていうのは本当に凄いものですよ、本当に。

さて受賞者の荻原浩さんで一つエピソードを思い出しました。

私が小説家としてデビューした直後のこと。ある編集者の方から「竹内さんは器用貧乏にならないように気をつけたほうがいいですよ。いつも似たような舞台やテーマを書いたほうが、固定読者がつくし編集者も依頼しやすいから、竹内さん本人もラクですよ」といった指摘をされたことがあります。

それに対して私はこう答えました。「だけど同じようなものばかり書いていたら厭きる気がします」。

すると編集者はこうつぶやきました。「毎回書くものが違って、固定読者がそれほどいないのに売れているのは荻原浩さんくらいです。まあ、竹内さんもそういうタイプでしょうけど、苦労しますよ」ちょっと慰め口調で。

もちろんそのときは「いやいやいや。荻原浩さんという前例があるのだから心配ご無用!」と心の中で啖呵を切ったのですが……さすがは敏腕編集者ですわ。というか預言者かっ(笑)!

笑っている場合じゃないですね。またみなさんに作品を見ていただけるようにがんばります!

以上、2019年上半期の【勝手に竹内雄紀賞】発表でした。

(文・竹内雄紀)

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