【賀茂美則の視点】大坂なおみと二重国籍問題~認められないと困る7つのポイント

様々な人種の手

全米、全豪と連覇した大坂なおみ、いろいろな意味で衝撃でした。これまで日本選手と言えば、主に体格差のせいで錦織圭に代表される「技巧派」が多かったのに、パワーとスピードで相手選手を圧倒する大坂なおみはやはり見ててスカッとします。インタビューの受け答えに代表される「可愛さ」や新しいコーチを得て素質が覚醒したという話題の一方、「褐色の肌」を持つ「日本人選手」に違和感を持つ人も多かったようです。

こんにちは。37年前からアメリカに住み、2019年現在ルイジアナ州立大学で社会学の教授をしている賀茂美則です。

ここでは、大坂なおみの活躍が「二重国籍問題を認めない日本」にも一石を投じる可能性について書いてみることにします。

大坂選手は大阪生まれ。3歳の時にハイチ系アメリカ人の父親と日本人の母親と共にアメリカに移住しました。「出生による二重国籍者」ですが、重国籍を認めない日本の法律上、22歳になる2019年の10月までに国籍を選択することになっています。ただし、一方の国籍を選択してもう一つから離脱するのは、「真面目な人」か「無知な人」か「有名人」というのが相場です。というのも、選択しなければ日本政府は「日本国籍を選択したものとみなし、もう一つの国籍は離脱の努力をしている」と無理くりに解釈するので。そうじゃないと歌手の宇多田ヒカル、筆者の2人の子どもを始め、世界中で何万人の法律違反者が生まれしまうことになります。

なので、ここで大坂なおみさんに提案。今年の10月に「私、日米両方の国籍を保持することにしました」って宣言してはいかがでしょう? それがきっかけになって「日本政府も重国籍者を認めよう」という動きになると、筆者を始めとした海外在住邦人にはこれ以上ない朗報になります。

筆者はアメリカ在住37年になりますが、いまだに日本国籍です。アメリカの永住権(グリーンカード)保持者ですが、いろいろと困る点があります。ところが、アメリカ国籍を取ったら取ったで困ることがあります。以下、二重国籍を認めてくれないので困っている7つのポイントとして並べてみます。

 

日本国籍のままだと….

1 アメリカの選挙権がなく、もちろん、被選挙権もない。

投票できないのは過去に重罪を犯した人と外国人なので、何だかなあ、と思うわけです。トランプがいかに嫌いでも(好きでも?)、投票でその意思を伝えることができません。ちなみに、現在は「廃止」されている徴兵制が復活したら永住権保持者はアメリカ市民と同様に扱われます。

 

2 配偶者が亡くなった場合、アメリカ人にはかからない相続税が、外国人だとかかる

もっとも、控除額が1100万ドル(12億円)程度なので、一般庶民に影響はないですが。

 

3 6ヶ月以上海外に居住すると、永住権を剥奪されることがある

再取得は難しいので、実質的にアメリカには住めないことになる。筆者は大学で教鞭を取っているので、海外の大学に6ヶ月〜2年間というスパンで赴任する同僚もいる中で、こういった可能性は閉ざされてしまいます。

 

アメリカ国籍を取得すると….

4. 何よりもまず、日本国籍を剥奪される

戸籍謄本に「バツ印」がつけられ、日本人ではなくなります。この法律のせいで、カズオイシグロ、南部陽一郎、中村修二という3人のノーベル賞受賞者が日本国籍を失っています。筆者も「アメリカ合衆国帰化申請書」を準備してありますが、出せないでいます。日本の国籍を喪失するのは、「日本人としてのアイデンティティ」の一角を失う気がしてしまいますよね。日本への長期滞在ビザを取って生活したとしても、戸籍謄本がないので、アパートが借りられなくなったり、保険や年金など、問題は際限なく生まれるでしょうね。外国人になるんですから。

 

5 日本のパスポートを使った瞬間に「旅券法違反」になる

アメリカのパスポートを使えばいいじゃないかと思うかも知れませんが、その場合、日本の滞在期限が3ヶ月になってしまいます。

 

6 日本にある財産の被相続人になった場合、書類にサインをする際などにより複雑な手続きが必要になる

いま、たまたま日本人の友人が突然亡くなり、残されたアメリカ国籍の家族がその財産を相続する手助けをしていますが、やはり日本国籍がないので面倒なことが多々あります。

 

さらには……。

7 アルゼンチンやブラジルなど国籍離脱を認めていなかったり、認めていても実際には困難な国がある

アルゼンチンから日本に帰化した場合、もしくは両国で生まれた日本との二重国籍者が22歳になって日本国籍を選択した場合、他方の国籍は離脱できません。アメリカやイギリスでは、「国籍離脱届け」を出そうとしても、「相手国の強制ではなく、100%自由意志である」ことを宣誓しないとならないので、事実上受け入れられません。なので、中途半端な二重国籍者になります。

アメリカの市民権の申請書

アメリカの市民権の申請書

日本の政府が重国籍を認めるようになると、こういった問題が一気に解決されます。

大坂なおみは「日本人」なのかと感じる人がいることと二重国籍の問題は一見無関係ですが、どちらも国際化の避けられない帰結であること、「国籍」というのはもっと柔軟に考えるべきだという点で、実は大いに関係があります。

大坂なおみさん、10月の誕生日を前に「私、日米両国の国籍を保持します」って宣言してもらえませんか?

【文 賀茂美則】

※関連記事 日本は「二重国籍を認めていない」こと、ご存知でしたか?

海外書き人クラブにお任せください!

「海外書き人クラブ」は2000年に設立された海外在住日本人ライター・カメラマン・コーディネーター・翻訳者の集団です。2020年現在100ヵ国300名以上の会員が在籍中。日本国内のライターやカメラマンの手配も可能です。

【新聞社・出版社】では、朝日新聞社様・時事通信社・KADOKAWA様・小学館様・集英社様など

【広告会社・マーケティング会社】では、博報堂様・電通パブリックリレーションズ様・ぐるなび様など

業界の最大手や有名企業の皆様とも直接取引。経験と実績があります。

また新規会員も随時募集しています(入会金・年会費無料)。

海外情報をお求めの方、ぜひこちらをご覧ください。

海外書き人クラブの詳細はこちら!

SNSでもご購読できます。

コメント

  1. junko kirimoto 桐本潤子 より:

    賀茂美則さま
    はじめまして、イタリア人と結婚し、24歳の息子とイタリアに住んでいます。去年、息子の日本のパスポ-ト更新の際に日本国籍選択をし、今のところ重国籍を維持していますが、この問題について話をする度にイタリア人の主人とちょっともめるんです。彼曰く、重国籍を認められていたい日本の国籍を維持して、イタリア国籍をまだ離脱できていない状態では、イタリア国内においても違法者扱いだ、と。最近になってこの話を再度したのは、息子が交換留学生で日本の大学を候補に入れていて、しかし現時点ではコロナの影響で外国人留学生にビザが下りないと。じゃあ日本のパスポ-トで入国してはどうか、こちらの大学がそれを認めれば、の話だが、と。主人曰くそれは違法だと。
    出生によって重国籍を与えられた場合、外国籍離脱の『努力をする』という日本の変な法律のせいで、私が変なことを言っていると思われています。しかもその『努力』を法的にどのように証明すればいいのでしょうか。また、このまま重国籍を持ち続けても、違法にはならないのですか? 将来もし、国家公務員になろうとしたときに問題になる、ということだけはわかっているんですが。

    1. Yukio Yanagisawa より:

      ご連絡ありがとうございます。「世界のコトなら」の編集長です。
      賀茂さんからコメントが届いています。
      これからも「世界のコトなら」をよろしくお願いします。

  2. 賀茂美則 より:

    著者の賀茂です。
     コメントありがとうございます。
     まず、僕が調べた限りでは、イタリアは二重国籍を認めています。従って、イタリアの法律には何も違反していません。
     ご主人は「日本の法律に違反している」とおっしゃっているんだと思いますが、「重国籍を認められていない日本の国籍を維持して」の部分が間違っています。日本は「条件次第で重国籍を認めて」いるんです。わが家の2人の息子も、宇多田ヒカルも、大坂なおみも、桐本さんのお子さんも同じです。ご主人がどうしても納得されないのであれば、国籍法16条1項を訳してあげてください。
    https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000147
     また、「努力している証明」は必要ありません。この文言がどうしてついているかというと、「国籍離脱」が簡単にできない国があるからです。「離脱の努力をしていない」からという理由で法務大臣から催告が出されたことは過去に一度もありません。「このまま重国籍を持ち続けても、違法には」なりません。ご心配なく。
     元の記事を読み返しましたが、唯一書き換えるとしたら「中途半端な二重国籍者」を「合法的な二重国籍者」に書き換えるくらいです。
     ちなみに、僕の次男は日本の大学に短期留学しましたが、日本のパスポートで入国しました。留学ビザがうんぬんとかうるさいことは一切なく、楽勝でしたw。

コメントを残す

*