おおらかすぎる「ニュージーランド気質」にカルチャーショック!

国民性とか〇〇人気質とか、そういった国によって違う雰囲気ってありますよね。ここでは、私の住む国、ニュージーランド独特と思われる気質について私見を述べてみたいと思います。

一言でニュージーランドの雰囲気を表すなら、「おおらか」または「気楽」でしょうか。何事もどことなくのんびりゆったりなのです。

2014年、私は夫と三人の子ども達と共にニュージーランドに移住しました。「移住しました」なんて簡単に書きましたが、実際はそれはもう大決心の末の大冒険の始まりでした。その紆余曲折ストーリーはまたの機会にしたいと思いますが、ともかくまずは生活していくために働かなければなりません。私は日本食レストランのウェイトレスになりました。

働き始めてまもなく衝撃の事件が起こりました。店の近くで道路工事が始まり、工事をしている現場の若い男性がコーヒーと寿司のテイクアウェイ(ニュージーランドでは、持ち帰りのことをテイクアウトではなくテイクアウェイと言います)を買いに来ました。そこまでは普通です。

ところが支払いの際、彼のデビットカードは拒否され支払いができません。彼は「あー、お金なかったんだ。明後日が給料日だから明後日に支払うよ。いい?」と聞いてきたのです。

えっ? 私は自分の英語力が足りないために聞き間違えかと思いました。慌てて店長さんを呼んでくると彼はこともなげに「いいよ」と。目が点。

驚いたポイントは二つ。まず店長がそんなことを言ってくる客をよくある普通のことのように扱い、難なく許可をしたこと。店長さんは日本人でしたけど在ニュージーランド30年以上でしたので、ほとんどキウィ(ニュージーランド人は自分達のことをキウィと言います。国鳥のキウィが由来です)と言ってもいいでしょう。

そしてそれにも増して驚いたのがその若者くん。君はコーヒーとランチの持ち帰り寿司代も払えないほど銀行にお金がないというのに、その事実を今まで気に留めてさえいなかったとは! そして悪びれることもなく明後日払うからと言う厚顔さ! おっと失礼、鷹揚さというべきか。

余計なお世話ですが明日のご飯は大丈夫なのかい? おばさん(私)は心配になってしまいました。

結局その彼は約束通り翌々日にまたやってきて、ちゃんと支払いを済ませました。何も問題なかったわけですが、ニュージーランドにやって来たばかりの私には刺激的な出来事でした。

子どもの学校でも来た当初は驚きの連続でした。日本の学校を転出する際、私たちはあれやこれやと準備しました。在学証明書に成績証明書。担任の先生だけでなく教頭先生にも挨拶して、英語で記載してもらえるように頼んだり、これまでの通信簿や身体測定の記録をまとめたりと、ニュージーランドの学校でどんな書類を要求されるかわからなかった私たちはできる限り頑張りました。

ところがどっこいこちらの学校見学に行って双方が気に入れば、はいオッケー。入学の契約書にサインしてお金を振り込めば、はいオッケー。という具合だったのです(注:あくまで2014年当時の、我が家の子どもが通った学校の場合です。子ども達は当初、留学生扱いの生徒として入学しましたので公立でも授業料がかかりました)。

「あのー、こういう書類を持ってきたのですけれども」と、そろそろと日本の学校名の印刷された封書を差し出しても、中をチラと見て「特に必要ないですよ」と笑顔で返されました。

スーパーマーケットでも時々これぞニュージー気質よねぇということに遭遇します。これはつい昨日の話。セルフレジで自分の買い物の会計をしていると、店の係の人が「あなたクラブカード持ってる? こっちの人に貸してあげられるかしら?」と私に声をかけてきました。

店員さんの横にいた隣のセルフレジで会計していたらしきキウィのおばさんが、「私のポイントをあげるわ」とニコッと微笑んでいます。一瞬考えた後、状況が把握できました。

隣のおばさんはクラブカード(その店のみ使えるポイントカードのようなもの)を家に忘れてきてしまって、でもクラブカードを持っている人だけが得られる割引を受けたい。それで店員さんを呼んで、持っているけどたまたま忘れたと訴え、その店員さんがすぐ近くにいた私に声をかけたということらしいのです。

私のクラブカードを受け取ったキウィおばさんは、ピッとカードを機械にかざすとサッと私にカードを返し、サンキューと言いながらウィンク。割引を得られた彼女、他人のポイントをもらった私。

ウィン、ウィンの取引に見えるけど、きっとこれは規約違反ですよね。でもいいことしたと満足そうな店員さん、ニコニコして去っていきました。

ニュージーランドのスーパーマーケットやカフェなどの飲食店では、人間以外の訪問者も時々います。もちろん盲導犬や介護犬は当然です。

そうではなく日本ではほとんど見ない光景があります。それはスズメちゃん。日本だったらもし入ってきたら店員さんは必死に追い出そうとするでしょうし、お客さんも怖がったり不愉快さを露わにしたりするでしょう。所変われば品変わる。こちらではみんな平然としています。鳥も人間も。

ニュージーランドに来てすぐに気がついたことがあります。道や公園にいる鳩や小鳥たちは人や車をあまり恐れていないのです。パーソナルディスタンス(いや、鳥だからパーソナルはおかしいか)が近いというか短いというか、ギリギリまで近づいてやっと逃げるのです。警戒心が低いのでしょう。人間以外の生物にもニュージーランド気質は共通のようです。

さらにそれを裏付ける決定的な事実があります。

おそらく多くの読者の皆さまが毛嫌いするあの昆虫、黒光りするアレ。ニュージーランドにもいます。御多分に洩れず我が家にも度々出現いたします。でもこちらのゴキちゃん、スローなのです! トロいのです!

息子は簡単に素手で手づかみで捕まえます。私は流石に素手ではなく、ティッシュ代わりに使っているトイレットペーパーを用いて(こちらのティッシュはやけに高いので我が家では買っていないのです)、捕まえます。

つまり発見してトイレットペーパーを取りに行き、戻ってきてもまだそこにいる。そして摘もうとした時になってようやく逃げ出すけれども、もうまな板の鯉状態で決して運動神経、反射神経のいいわけではない私にも捕まえられるのです。

そんなゴキちゃんなのであまり憎めません。捕まえたゴキちゃんは窓からポイっと逃してやります。もう家に入ってこないでねぇと声をかけながら。

日本にいたときは見た瞬間キャーと叫び、家人を呼んでいた私。殺虫剤か叩き潰す選択肢だけだったのに。私も知らず知らずのうちに、おおらかなニュージーランドの雰囲気に染まってきたってことなのでしょうね。

(文・写真 山口果菜)

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