【海外在住ライター直伝】「馬肉を食べますか?」世界29ヵ国で訊きました

馬

こんにちは。海外書き人クラブお世話係の柳沢有紀夫です。

以前、【世界の国民食⑤】4ヵ国のG級グルメ(ゲテモノ、グロ)(閲覧注意)という記事で、「馬刺しを食べると伝えると、欧米人にドン引きされる」ということを書きました。ただ「刺身」にするかは別にして、馬肉を食べる国はないのか? 馬肉を食べるのは世界で日本人だけなのか?

疑問に思ったことは調べてみよう。ということで海外書き人クラブのメンバーに訊いてみました。

「あなたの住む(住んでいた国)で馬肉は食べますか?」

回答があったのは以下の国々のメンバーです(敬称略)。最初にお断りしておきますが、その国全土にわたって調査したわけでも、法律的な可否を調べたわけでもなく、あくまでも現地在住者が一生活者の視線で、身の回りの状況を伝えるものです。

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回答のあった国々と回答者

アジア10ヵ国

  • アフガニスタン 瀧川貴世(元在住)
  • インド パッハー眞理
  • ウズベキスタン 川口穣(元在住)
  • カンボジア 西村清志郎/青山直子
  • タイ 鳥羽正子
  • フィリピン Okada M. A./大沢義生
  • ベトナム 古川悠紀
  • マレーシア 森純
  • ラオス 森卓
  • 中国 yue

アフリカ3ヵ国

  • エジプト アッブデルファッタ朋子
  • モロッコ 大西久恵/和田麻弥
  • 南アフリカ共和国 バンベニ桃

ヨーロッパ11ヵ国

  • アイルランド 小島瑞生(元在住)
  • イギリス 倉田直子(元在住)/倫敦塔子
  • オーストリア バレンタ愛(元在住)
  • スイス 小島瑞生
  • スペイン ボッティング大田朋子(元在住)
  • ドイツ 長藤かおり
  • ハンガリー 鈴木文恵
  • フィンランド セルボ貴子
  • フランス 羽生のり子/兒玉ゆきこ
  • ポーランド ソルネク流 由樹
  • ルーマニア 石川寛久

北中南米3ヵ国

  • アメリカ トゥルーテル美紗子/ハンソン容子
  • カナダ バレンタ愛/カオリ
  • ブラジル マンゲイラ靖子

オセアニア2ヵ国

  • オーストラリア 柳沢有紀夫
  • タヒチ(フランス領ポリネシア) 浜口幸喜

合計ちょうど29ヵ国! 何がちょうどかというと、29は「ニク」と読めるからですね。すみません。

ではまず食べる国と食べない国に分類してみましょう。……というか、日本以外で食べる国はあるのでしょうか?

 

馬肉を食べる国/食べない国

食べる国や地域

(「食べる人もいる」という場合はこちらに入れています。複数人から回答があって「食べる」「食べない」で別れた場合は「食べる」に入れています)

  • スイス
  • スペイン
  • タヒチ(フランス領ポリネシア)
  • ドイツ(食べることもあるが、非常に稀)
  • ハンガリー
  • フィンランド
  • フランス
  • モロッコ
  • 中国
  • 南アフリカ共和国

 

食べない国や地域

  • アイルランド
  • アフガニスタン
  • アメリカ
  • イギリス
  • インド
  • ウズベキスタン
  • エジプト
  • オーストラリア
  • オーストリア
  • カナダ
  • カンボジア
  • タイ
  • フィリピン
  • ブラジル
  • ベトナム
  • ポーランド
  • マレーシア
  • ラオス
  • ルーマニア

 

つまり……。

食べる10ヵ国/食べない19ヵ国

という結果です! 馬刺しなどを食べる日本を加えても「食べる国」は11ヵ国ですから、「食べない国」のほうがかなり優勢ですね。とはいえ、日本以外でも食べている国がそれなりにあることがわかりました。

そして意外だったのが、ヨーロッパにも食べる国が多かったこと。「欧米人は馬肉を食べないし、食べる人を忌み嫌う」というイメージを持っていたので、かなり驚きました。

そのヨーロッパを「食べる国」「食べない国」でわけてみると……。

 

ヨーロッパで「食べる国」

  • スイス/スペイン/ドイツ/ハンガリー/フィンランド/フランス

ヨーロッパで「食べない国」

  • アイルランド/イギリス/オーストリア/ポーランド/ルーマニア

 

意外や意外、6対5で「食べる国」のほうが優勢でした。

さらに「食べない国」は東ヨーロッパと、アイルランドおよびイギリス。このアイルランドおよびイギリス出身者の多い国を他の地域で見てみると、北米のアメリカとカナダ、オセアニアのオーストラリアも「食べない国」でした。

つまり「馬刺しを食べると伝えると、欧米人にドン引きされる」という仮説、じつは「欧米人」全体ではなく、「イギリス系のアングロサクソンやアイルランド系のアイリッシュにドン引きされる」ということなのかもしれません。私も「馬肉は欧米人ドン引き」だと思いこんでいたので驚きました。

じつは私たちが「欧米ではこうだ」というとき、実際は「欧米すべて」ではなく「アメリカやイギリスでは」という地域限定の話であることが往々にしてある気がします。つまり「欧米では」ではなく「英米では」ですね。学校教育で英語を習うので、英語を話す国からの情報が多くなるのは仕方がない部分はあるのですが、「ヨーロッパの他の国も同じ」と決めつけたり思い込んだりしないように気をつけましょう

 

「食べる国」からのコメント

では次に「食べる国」から寄せられたコメントを見てみましょう。まずはヨーロッパから。

 

スイスの馬肉ステーキ

スイスの馬肉ステーキ(小島瑞生撮影)

当然のように食べます。スーパーマーケットでも切り身が売られていますし(さすがに丸ごとは……)、レストランなどでも鶏や豚肉と同じような感じで“馬肉ステーキ”なんかがメニューに並んでいます

馬専門の精肉店もあります。ただカナダなどからの輸入馬肉をよく見ます。スイスでは馬をペットとして飼っている人も多いので(ウサギのようなスタンス)、スイス産馬は心理的抵抗が大きいのかもしれません』

(スイス 小島瑞生)

 

『スペインでは(少なくともわたしが住んでいたバレンシア州では)馬肉を食する文化があります。栄養価の非常に高い赤み肉として(牛肉よりもかえって高価!)古くから食用とされています
数年前にヨーロッパで馬肉混入が大問題だったこと、記憶に新しい人も多いと思いますが、「表示に嘘があった」という点は問題視されながらもスペインでは本件、EU他諸国に比べて大きな問題としては扱われませんでした』

(スペイン ボッティング大田朋子)

 

『食べます。馬肉専門の肉屋さんがあります

(フランス 羽生のり子さん)

 

『特に馬肉を食すことに抵抗はないようです。市場には馬肉専門店もあります。「別に食べなくてもいいけど私は食べられるよ」という人から、「とても好き」という人までいます。そもそも馬肉は、〈安い肉〉。庶民食だったのですが、最近はあまり食べられなくなったようです』

(フランス 兒玉ゆきこさん)

 

馬のコルバース(ソーセージ)

市場で売られている馬のコルバース(鈴木文恵撮影)

『食べます。生肉は売っていないのですが、コルバース(Kolbász)というパプリカパウダーのきいたハンガリー特産のドライソーセージ(サラミよりちょっと柔らかめの腸詰)になったものが市場で売られています。ハンガリー人は中央アジアから来た騎馬民族の末裔を言われていて、馬との関わりも深いようです』

(ハンガリー 鈴木文恵)

ハンガリーの大平原で見ることのできる馬術ショー

ハンガリーの大平原で見ることのできる馬術ショー(鈴木文恵撮影)

 

『精肉専門店に出ることはありますが、スーパーではまず見かけません。また乗馬を愛する人も多く、 普通の人はギョッとするようです。ただ戦時中は食糧不足でしょうがなく、馬肉を食べた歴史もあります』

(フィンランド セルボ貴子)

 

以上のように、ヨーロッパでは意外と一般的に食べられている国々が多いようです。では次にヨーロッパ以外の「食べる国」からのコメントです。

 

『馬肉専門店がありますが、食べるのは一般的な事ではなく、自分自身はそれが供されているレストランも知らなければ、食べた事もなく、食べているという人も聞いた事がない謎の専門店になっています』

(モロッコ 和田麻弥さん)

 

『食べると思いますが、メニューで見たことがありません。その代わりにロバ肉は時々みかけます』

(中国 yueさん)

中国のロバ肉レストラン

中国のロバ肉レストラン。店名の看板の左側にロバのイラスト。yueさん提供

 

『一般的には食べないと思いますが、スーパーでステーキ肉として売っているのは見たことがあります。僕が不思議そうに見ていたら、タヒチの人も「何だろう?」という感じで見に来て、驚いて、そのタヒチ人の連れにも「馬だよ」て話していましたので』

(タヒチ(フランス領ポリネシア)浜口幸喜)

 

『実は微妙なんです。放牧民族で馬をトランスポートの代わりとして使うので、食肉用ではないのですが、死期が来ると食べる人たちもいるそうです。ただうちの夫(コサ族)は食べたことはないけど、夫の祖父の馬が死んだ時に、村じゅうから人が来て、肉を持って行っていたそうです(笑)。でもコサ族に「馬肉を食べるか?」と問うと口を揃えて「いや、食べない」と言います』

(南アフリカ共和国 バンベニ桃)

 

「普通に食べる」のはじつはヨーロッパ以外では少ないようですね。これも意外でした。

 

「食べない国からのコメント」

次に「食べない国」からのコメントです。まずは先ほど書いたアングロサクソン系・アイリッシュ系の国々から。

 

『馬は食べません。アメリカは馬と共に発展したと言ってもいいくらい重要な存在で、食べようなどとは露ほども思わなかったと思います。『大草原の小さな家』などの古典を読むと、狩りをするにも隣町へ出かけるにも馬(それも、名前を付けて大切に育てられている)が登場し、「馬がいないと生きていけなかった」という切実さがわかります』

(アメリカ トゥルーテル美紗子)

 

「馬は友達」感覚なので、食べるなどと言おうものなら「人肉を食べる」と告白したかのような反応をされます。「生で刺身にして食べる」と追い打ちをかけ、衝撃をダブルにして楽しむのが私流です』

(アメリカ ハンソン容子)

 

『イギリスでは、馬肉は食べられていません。馬は貴族のイメージと強くつながっているので、食べるという概念は全くありません。ただし、2013年に「牛肉と偽装した馬肉混入バーガー」が大手スーパーで流通していたという問題が発覚し、イギリスで大スキャンダルに発展しました。偽装表示や食品衛生上の問題もさることながら、「馬を食べていたかもしれない」ということがイギリス人にはショックだったようです。』

(参照)Why are the British revolted by the idea of horsemeat?

http://www.bbc.co.uk/news/magazine-21043368

(イギリス 倉田直子)

 

大昔は食べていたそうですが、馬車が自動車に変わってから馬肉の供給が減りました。馬を殺して食べることに抵抗のある人の方がもともと多かったようです。食糧難だった戦中までは出回っていましたが、1950年代以降はどの肉屋からも姿を消したそうです』

(イギリス 倫敦塔子)

 

ペットや競馬のイメージが強く、食されていません』

(アイルランド(元)小島瑞生)

 

以上のアングロサクソン系・アイリッシュ系以外に、ブラジルも「馬は友だち・仲間だから」という理由なようです。

 

『絶対に食べません。日本の一部では馬肉をしかも馬刺しで食べる事を知っていて(TVで見たのか?)怖がります。ブラジルでは馬は乗り物であり、荷を運ぶもので人間に尽くします。年老いた馬は捨て馬にし、放して自由にしてやる習慣があります』

(ブラジル マンゲイラ靖子)

 

心情的に食べることができないというのと、馬肉を食用に調理する文化も技術も発達しなかったのが理由でしょうか』

(ポーランド ソルネク流 由樹)

 

その他、「単に馬が生息していないから」という地理的な理由なのが、東南アジアの国ぐにです。

 

『食しません。馬の生息地ではないので、野生の馬はいません』

(カンボジア青山直子さん)

 

『馬は非常に数が少ないので食べる習慣はありません』

(フィリピン Okada M. A.さん)

 

『馬は観光用と競馬用をおもに少数飼育されています。農耕馬はいないので、弱った農耕馬を潰して食べる習慣がないのかもしれません。農耕に使役されるのは、水牛(カラバオ)です』

(フィリピン 大沢義生)

 

以上、馬肉を食べる国・食べない国とその理由でした。国によって、それぞれですね。

次回はいよいよ「犬肉」について取り上げたいと思います。

 

★2017年4月3日補足

トルクメニスタン在住のギュルソユ慈さんから「馬は食べないようだ」との連絡がありました。

 

★2017年4月3日補足

同じくトルクメニスタン在住のギュルソユ慈さんから「ウズベキスタンとキルギスタンでは馬肉を食べる」との指摘をもらいました。

『両国では馬肉を食する文化があります。ウズベキスタンでは、カーズィーという馬肉のソーセージや、裂いた馬肉を麺と合わせたノリンという料理があります。キルギスタンでは、麺に塩茹でした肉を乗せる料理バシュバルマクに馬肉を使ったり、馬肉のソーセージなど馬肉を使った食べ物が多くあります。肉ではありませんが馬乳酒も愛されています』

「カーズィー」をトッピングしたウズベキスタンの国民食「プロフ」

「カーズィー」をトッピングしたウズベキスタンの国民食「プロフ」。ギュルソユ慈さん提供

馬肉と蒸し麺を和えた「ノリン」。これにも薄切りの「カーズィー」を添えて

馬肉と蒸し麺を和えた「ノリン」。これにも薄切りの「カーズィー」を添えて。ギュルソユ慈さん提供

 

これにより

食べる13ヵ国/食べない18ヵ国

になりました。

 

※以下の記事もぜひ!

 

【構成:海外書き人クラブ 柳沢有紀夫】

(「海外在住ライターを使ってみたい」と思われている方。「海外在住ライターになりたいと思われている方。このページのいちばん下をご覧ください)



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コメント

  1. おふら より:

    スーパーなどでは見かけませんが、オーストリアに馬肉屋さんあります。
    https://www.pferdefleischer.at/

    1. Yukio Yanagisawa より:

      ご指摘ありがとうございます。
      そうすると食べる14ヵ国、食べない17ヵ国になりますね。

  2. hakozaki factory より:

    非常に興味深い記事ありがとうございました。
    南米では抵抗があるとのことで、
    スペインに近いポルトガルの影響はどうなのか
    興味が有ります。

    1. Yukio Yanagisawa より:

      ポルトガル在住の人に訊いてみたいのですが……今は在住者がいないです。すみません。

  3. 池田みゆき より:

    イタリアでは馬肉専門の肉屋がたくさんあります。
    ビタミンが豊富とのことです。ポーランドは食べないそうですが、イタリアで市販されている大半の馬肉はポーランドから輸入されています。

    1. Yukio Yanagisawa より:

      情報、ありがとうございます。ポーランドの馬肉は輸出用なんですね。オーストラリアでもかつてはカンガルー肉が同じ扱いでした。今ではスーパーでも売られていますが……買っている人はあまり見ないです。

  4. きりしま より:

    ポーランドに馬肉食文化がないのは驚きでした。
    ポーランドは食用馬肉を日本に活発に輸出してますからね。
    https://kumamoto-basasi.com/mt/basashi_basic_knowledge/%e9%a6%ac%e3%81%ae%e7%94%a3%e5%9c%b0/462.html

    1. Yukio Yanagisawa より:

      ご連絡ありがとうございます。
      試しに”財務省の貿易統計 馬肉”で調べたところ、農林水産省の2017年3月次の統計が出てきました(財務省だと2019年の統計があるのですが、「馬肉、ろ馬肉、ら馬肉、ヒニー肉と他のものがあれこれ混ざっているものしか見つかりませんでした)。
      それによるとカナダが全体の2/3近くを占めて第1位。ポーランド2位、アルゼンチン3位でした。
      挙げていただいた「熊本馬刺しドットコムブログ」のページには「(熊本産ではなく)カナダ産や北海道産を熊本で4ヶ月以上肥育した馬肉についても、業者の方々は自信を持っています。熊本で穀物を与えて徹底した管理を行なった高い技術力こそが、熊本ブランドであると業者の方はいっています」とあるので、「肉」に解体してではなく、「生きた馬」のままの状態で輸入されることが多いのかもしれませんね。

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