ベルギーは「小国」でありながら、じつは世界のオシャレな人たちが認めるファッション大国。そして首都ブリュッセルにはベルギー・モードの見どころが満載!
この記事では海外書き人クラブ会員のMartanがブリュッセルで訪問した場所や現地のファッション・イベントなど、ベルギー・モードの魅力と最新情報をお伝えします。
ベルギーの「モード」の特徴
ベルギーはフランス・パリや米国ニューヨークのようなトレンドの発信地というよりも、既存の常識を覆すような革新的デザインを生み出すクリエイティビティの聖地として、世界中のファッショニスタやデザイナーから注目と尊敬を集めてきました。
ベルギーのファッションはなぜそれほどまでに「特別」なのでしょうか。
その理由の一つはベルギーにはシュルレアリスム(超現実主義)の精神が今も息づいているためと言われています。シュルレアリスムと言えば、代表的な画家のマグリットなどが日本では知られていますが、もともとは20世紀初頭にフランスで始まりベルギーで独自の進化を遂げた芸術運動のことを指します。ざっくりと分かりやすく言えば、理屈や常識を超えた夢や無意識の世界を表現しようとする試みと言えるでしょうか。

ベルギーのデザイナーたちはこの精神を今も受け継ぎ、当たり前の日常を少しだけ壊して別の世界を見せといった試みを実現し続けてきました。その結果、単なる流行ではないファッションを超えた芸術的で哲学的な「モード(様式)」の地位を世界で確立したのです。
ファッションという言葉からパリやニューヨークのように華やかなショー、消費されるトレンド、大金が動くビジネスなどが連想されますが、ベルギーが世界に誇る「モード」はそれらとはちょっと違います。
ベルギーのデザイナーたちはあえてトレンドを無視し抵抗することで、10年後、20年後もその価値を失わない独自のスタイルを確立してきました。ファッションが今何が売れるかを追うビジネスだとすれば、ベルギーのモードは服とは何かとの哲学的な探求や服の概念を問い直す創造性を重視します。衣服を単なる消耗品ではなく現代アートにまで昇華させる――それがベルギーがモード大国と言われる最大の理由なのです。
首都ブリュッセルは現代モードの実験場
ベルギー・モードと言えば、王立芸術アカデミー出身の「アントワープの6人」のデザイナーを真っ先に思い浮かべる人が多いかもしれません。日本でも人気があるドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)やアン・ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)をみても分かるとおり、アントワープのスタイルは独創的かつ前衛的、アーティスティックと評されています。

その一方EUやNATOの本部があり欧州の「首都」と呼ばれるブリュッセルも、モードの分野においてアントワープに負けず劣らずのクリエイティブで洗練されたプレゼンスを放っています。ブリュッセルは多文化が融合する知的で国際的かつコンテンポラリーなエレガンスをまとう都市であり、現代モードのいわば実験場としてアントワープとともにベルギー・モードの双璧をなしているのです。
例えばブリュッセルに所在するベルギー最高峰の国立芸術大学「ラ・カンブル(La Cambre)」は、世界中から毎年入学希望者が殺到するなど若い才能たちが憧れるモードの殿堂として知られています。少数精鋭のストイックな教育環境で学生たちは徹底的に自己表現と技術を教えられ、最後まで生き抜いた卒業生は即戦力として世界のトップメゾンから声がかかるほどです。
毎年6月に開催される卒業ファッションショーは世界のファッション関係者が注目する一大イベントであり、1年生から修士課程の卒業生まで全学年の作品が披露される機会となります。このイベントはチケットを購入すれば一般の人も観覧可能です。世界屈指のレベルを誇る学生たちの作品をパリのランウェイさながらの演出で見ることができるのです。
ブリュッセルの最新モードをダンサール通りで楽しむ

他にもブリュッセルには訪れるべき場所が多くあります。特に中心部、世界遺産グラン・プラスからほど近い場所にあるブリュッセル・モード&レース博物館(Musée Mode & Dentelle)は絶対に外せないスポットです。ブリュッセルはかつて世界最高峰のレース(編み物)の産地でした。この博物館はその繊細なアンティーク・レースの膨大なコレクションを所蔵する一方で、現代のブリュッセルのデザイナーの作品を積極的に展示しています。レースの伝統的な技術がどのように現代のモードに昇華されているか、ベルギー・モードの連続性を実際に目で見て肌で感じることができるという点で、この博物館は特別な場所なのです。
そしてこの博物館のすぐ近くにはセレクトショップがたくさん並んでいるダンサール通り(Rue Dansaert)があります。博物館でブリュッセルのファッションの歴史と伝統に触れた後、ダンサール通りのセレクトショップで実際に今の最新モードをチェックするというのが、ブリュッセル流の最も贅沢な楽しみ方と言えるでしょう。

ダンサール通りの少し先にあるのが、アート分野のクリエイティブ機関として知られるブリュッセル・モード&デザイン・センター(MAD Brussels)です。ベルギーは国を挙げてファッションを文化遺産として大切にしています。MAD Brusselsは地域や市などの公的資金を受けて、ブリュッセルの若手デザイナーの起業や海外進出をバックアップしています。また1階のギャラリースペースでは、常にブリュッセルのデザイナーたちの作品の展示やポップアップが行われています。

驚きのイベント「KNOTT SO MAD」に行ってきた
現在MAD Brusselsでブリュッセル出身のデザイナー、ジャン=ポール・ノット(Jean-Paul Knott)のイベントが開催されていたので早速行ってきました!
自身の名を冠したブランド「JEANPAULKNOTT」の旗艦店がコロナ前まで東京・青山にあり、日本でもよく知られています。性別の枠にとらわれないデザインと際立ったエレガンスを提唱し続け、引き算の美学を追求するノット氏のスタイルは、まさにミニマリズムの極致でブリュッセルの都会的な現代モードの象徴ともいえます。
今回訪問したのは同ブランド創設25周年を記念した展覧会「KNOTT SO MAD」です。ブリュッセルを代表する機関とデザイナーの2つの名前を掛け合わせていてユーモアが感じられます。
平日の朝一番、混雑前の時間帯に入場することができました。入口から入ると眼前には広大な空間が……とにかく広くて、日本ではあまり見ないような規模に正直ビビります。気になって受付の人に確認したところ、なんと約2000平方メートルもあるそうです。とても親切な若い女性でいろいろと教えてくれました。
この展覧会には約70点のノット氏の代表的なファッションシルエットが展示されていて、その中には協力アーティストとの25点の特別なコラボレーション作品も含まれているのだそうです。そしそれらのシルエットはノット氏の友人ら25名のアーティストによる数多くのアート作品とともに展示されているとのこと。「25」という数字にこだわっているのがよく伝わってきます。

会場を歩いていると……スゴイの一言に尽きます。さすがベルギーの代表的デザイナーによる現代モードという感じ。どこを見てもキラキラ華やかに輝いてみえます。エレガントなファッションシルエットばかり。
そしてシルエットと数々の独創的なアート作品が邪魔することなく互いに存在感を引き立たせている。ここではファッションとアートが見事に融合している。本当に素晴らしい。これは本当に一見の価値ありです。

そして会場でアート作品にも見入っていると……おやっ? これはひらがなでは?

どうやら日本人アーティストのようです。詩人兼フォトグラファー、里太(Rita)氏の作品。写真と文字、そして詩の組み合わせがとても素敵です。
早速、会場のガイドの人に聞いてみたところ、この展覧会で作品が展示されている日本人アーティストはなんと5人もいるのだそう。25人中5人ということは……5分の1! 日本とのゆかりが強く感じられます。そういえば確か以前、ノット氏は親日家と聞いたことがありました。
こちらは日本の現代アートを牽引する黒田アキ氏の作品。ブリュッセルでお目にかかれるとは!

こちらは書家の中塚翠涛氏の作品。ファッションシルエットとマッチしていて素晴らしいですね。

緒方 環氏の墨画がたくさん壁に掛けられていました。めちゃカッコいいです!
他にもベルギー人グラフィックアーティストやフォトグラファー、フランス人画家、彫刻家などの作品がたくさん展示されていて、驚きとワクワクの連続……こんな展覧会は初めてです! ブリュッセルのモードはまさにアート。いろいろと見て学びながら素晴らしい体験をさせてもらいました。
展覧会「KNOTT SO MAD」は2026年1月末まで開催されているそうなので、ブリュッセル近辺にいらっしゃる機会のある方はぜひお見逃しなく!
(文・写真 Martan)