新型コロナウイルス対策現地レポート➂台湾(その2)【小川聖市】

マスク、消毒用アルコール、ハンドサニタイザー売り切れの表示。

新型コロナウイルス肺炎で、日本ではマスクの極端な買い占めと高額転売が起きています。このマスク事情、台湾ではどうなのか? 海外書き人クラブ会員で台湾在住の小川聖市がお伝えします。

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1 法律の視点から

台北市内の薬局で貼られているマスク販売の決まりごとを記した張り紙

台北市内の薬局で貼られているマスク販売の決まりごとを記した張り紙

台湾のマスクの対策を見る上で、知っておくべき法律は刑法第251条

内容は、

  • 意図して取引価格をつり上げる、下記に定める物品を貯め込むなど、正当な事由なく市場への流通を妨げた者は3年以下の懲役、併せて30万元(約109万1216円)以下の罰金を科す。
  •  一 食糧、農産品もしくはその他生活に必要な飲食物品
  •  二 種苗、肥料、原料もしくはその他農業、工業必需品
  •  三 前二款(一、二)以外にの行政院の政令により生活必需品として定められたもの
  • 暴行、脅迫、妨害を以って前項(『意図して取〜』の条文)の物品を販売、運搬した者は5年以下の懲役、併せて50万元(約181万8694円)の罰金を科す。
  • 意図して第一項(『意図して取〜』の条文)の物品の取引価格に影響を与え、不実の情報を流した者は2年以下の懲役、併せて20万元(約72万7478円)の罰金を科す。
  • ラジオ、テレビ、電子メール、インターネットもしくはその他伝達手段を用いて前項(『意図して第一項〜』の条文)を犯した場合、科された量刑の2分の1を更に加えることができる。
  • 第二項(『暴行、〜』の条文)も未遂も処罰の対象とする。

*以上、筆者直訳

 

日本だと「生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律」が内容と罰則規定が似ているものです。

マスクもいろいろ種類がありますが、一般の医療用と外科の手術で使用するマスクは、行政院が1月31日付で「刑法第251条第一項第三款の生活必需品とする」と政令を出し、規制の対象となりました。

実際、刑法第251条が関係すると見られる事例が2月2日に高雄市で起きました。2018年11月の高雄市議会議員選挙に立候補した方が、選挙活動中の配布物に使用したマスクの残り4万2000枚を無料で配布したことで、警察に呼ばれ事情聴取を受けました。

最近、在日中国人がマスクを無料配布する様子がツイートされているのを見かけましたが、このマスクが医療用で場所が台湾なら、主催した方は刑法第251条違反の疑いで警察に呼ばれ、入手経路など事情を細かく聞かれることでしょう。

 

2 日本の状況

日本も生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律を適用して、マスクの極端な貯め込み、高額転売に対応したらいいのではないかと考えました。実際、NHKから国民を守る党の浜田聡参議院議員が同様の質問主意書を提出していたそうですが、それに対し、政府は2月21日の閣議で、

「今の段階では法律に基づいて、買い占めや売り惜しみをしている事業者に調査や指導を行ったり、物価の高騰を受けて標準的な価格を設定したりする事態とまでは認められない」

という答弁書を決定した、ということでした。また、答弁書には

「製造販売業者などに増産を講じるとともに、小売業者に買い占めの自粛や販売量の制限を行うことなどを要請している。状況の変化を捉えつつ、適切に対応していきたい」

と記されているそうです。

*以上、【引用】

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200221/k10012295501000.html?utm_int=detail_contents_news-related_003

この答弁書、2月21日の菅義偉官房長官の会見内容(後述)、テレビとwebのニュースで見ている限りですが、政府の対策は、マスクを製造する業界団体、各企業に早期の製造・流通による欠品状態解消を、

「お願いする」

フリマアプリやオークションサイトの管理・運営者に対応を、

「お願いする」

消費者に高額といえる出品にむやみに手を出さないよう、

「呼びかける」

で、具体的に不安を取り除くための方策を打ち出していないのではないでしょうか。

 

【参考】

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200221/k10012295501000.html?utm_int=detail_contents_news-related_003

https://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/2020/kakugi-2020022101.html

 

3 製造、小売の現場は?

では、答弁書にもある「要請」を受けた製造、小売の現場の状況はどうなっているでしょうか。

製造の現場は分かりませんが、小売の現場は、私が過去に見たツイートに、「マスクがない」とお客さんに怒鳴られ、外国人客のなりふり構わない態度に困り、マスクの爆買いに走る外国人に関するものを多数見かけましたが、これらは全部、間違いかツイートした方の勘違いでしょうか。または、私の気のせいでしょうか。

また、世界規模の大手通販サイトで「適正」と思える価格表示のものはありましたか。

中には、外国人向けに他の商品と抱き合わせで販売している店舗もあったようですが、その店舗にどのような印象を持ち、また、どのような声が向けられましたか。

このような民間任せの状況が続いたら、販売に対応する店員、工場で想像以上の注文に応え製造している業者、さらには稼働している機械まで疲弊してくることが予想されます。もし、それぞれが疲弊の末、総倒れになったら、今の日本国内で本当に必要な人のところにマスクが行き届くのか、と心配になります。同時に、一人一人がその状況をどこまで想像しているのか、ものすごく気になります。

台湾は2月6日から薬局で制限を設けて販売していますが、毎日マスクを販売し、長い列を作って並ぶ購入者に対応すること2週間余り。薬剤師協会のfacebookのサイトには、マスクの販売に追われ、本来の薬剤師としての仕事ができなくなっていることへの不満の声が上がってきていて、負担の大きさが伺えます。

 

【参考】

https://news.tvbs.com.tw/life/1279400

 

4 「良心・善意」の日本、「現実直視」の台湾

厚生労働省のツイッターに出ている啓発ポスターには、

“マスク不足を解消するために官民連携して、毎週1億枚以上のマスクを消費者のみなさまにお届けします。”

と書かれています。また、菅義偉官房長官は2月21日の会見で、

「現在、国内主要会社で24時間の生産体制によって、例年の倍以上の供給となっていて、中国からの輸入も徐々に再開しており、今週には毎週1億枚以上の供給が確保されている」

「来月には月産6億枚を超える規模に供給力の拡大を図るべく、さらなる増産を働きかけている。政府としては引き続き、生産・流通状況をきめ細かく把握して、できるだけ早く品切れが緩和されるよう官民で連携して取り組んでいきたい」

「政府としては引き続き増産などにより供給能力を拡大するとともに、国民の皆さんには必要な量を購入してもらうように働きかけるなど、できるだけ早く品切れが緩和されるよう取り組んでいきたい」

と述べていますが、これを実感できている人は、今どのくらいるでしょうか。

*以上、【引用】

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200221/k10012295001000.html?utm_int=detail_contents_news-related_004

 

この話を聞いた時、

『1億枚以上』のうち、『転売ヤー』と呼ばれる人たちに、どのくらい爆買いされるか、考えているのかな……」

と思わずにいられませんでした。実際、1月に日本を訪れた台湾人タレントがマスクを1万枚購入し、武漢に送ったことが報じられ、「台湾でもマスクが手に入りにくくなっているのに、中国に送るとは」など炎上する事態も起きましたが、このような爆買い行為は、引用元のタレントさんだけではないはずです。

 

また、「中国からの輸入も徐々に再開しており」とありますが、今の台湾なら、

「なぜ(感染が一番ひどい)中国から輸入するんだ? そのマスクで感染防げるのか?」

「向こうが困っている状況で、マスクの輸出に協力してくれるわけないだろう? 何考えているんだ!」

など、厳しい声が出ても何ら不思議ではありません。

日本でも、このような声が出始めましたが、私自身困っている花粉症の時期にも入っているだけに、もっと厳しい声が出てきても驚きません。

 

【参考】

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200221/k10012295001000.html?utm_int=detail_contents_news-related_004

https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/202002/21_a.html

 

過去にも紹介していますが、台湾は旧正月の休みが明けた1月30日からの対応は早く、販売規制を設け、広く行き渡るよう努めています。また、2月20日より販売数量を成人用200枚→400枚、児童用50枚→200枚、購入制限も児童用2枚→4枚、児童用の購入年齢12→13歳(2月22日より)と延期になった2月25日からの新学期に備え、児童用の販売を強化する形をとり、製造状況と現状を汲んだ対策をとっているように見えます。

台北市内の薬局の張り紙。「整理券は9:10から、成人用のマスクは売り切れ」と記されています。

台北市内の薬局の張り紙。「整理券は9:10から、成人用のマスクは売り切れ」と記されています。

一方で、日本の対応の仕方は、民衆の「良心」、「善意」といったものに委ねすぎているように見えます。マスクを中国へ送っている自治体や団体がありますが、自分たち−特にその地域の住民たち−に必要な分は確保されているかだけでなく、送付先の中国で(送付する側が)望んだ形で使われているのをしっかり確認しているか気になってしまいます。

私は経験していませんが、中国に留学していた時、他の留学生から、

「(母国から)送ってもらった荷物の中身が抜かれている形跡がある」

という話を何度も聞きました。こうした現実があることを理解している方は、どれくらいいるでしょうか。

良心に基づき、博愛の精神を発揮する前に、現状を見据え、自分たちをしっかり守ること、守れて人々が安心できる環境を作ることが、今の日本に求められている姿勢なのではないでしょうか。

(文と写真 小川聖市)

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