【海外ライターに12の質問】⑥小説家・竹内雄紀さん

各ライターの「仕事ぶり」だけでなく、「人となり」をご覧いただく【海外ライターに12の質問】

第6回は、「新潮文庫は小説の持ち込みは受け付けない」という内規をぶち破って『悠木まどかは神かもしれない』(新潮文庫)で衝撃のデビュー涙腺崩壊必至と噂の『オセロ●○』(ハルキ文庫)、笑いのあとにジンとくると評判の『日本レンタルパパの会』(祥伝社)などを出版している小説家・竹内雄紀さんの登場です。海外在住で小説家。いったいどんな暮らしぶりなのでしょう。

1 これまでの略歴を教えてください。

大学を出て、まず広告代理店でコピーライターになりました。

たぶん本を読み始めたころから、「自分もいつかは物語を書く人になりたい」と思っていたのですが、大学時代には書けなかった。で、就職しないといけないなあと思ったときに、やはり物を書く仕事で修行しようと。

新聞記者とか雑誌のライターとかいろいろあったのですが、その中でコピーライターを選んだのは「いちばん多くの人に言葉を届ける職種」だと思ったからです。雑誌ならせいぜい何十万部、新聞でも一千万部。でもたとえば当時人気があったコカ・コーラのCMソングなんて、日本全国それこそ幼稚園児から年配の方まで1億人が口ずさめる。そんな環境で揉まれたいと思ったんです。

結果的に1億人に口ずさんでもらう仕事はできませんでしたが、コピーライターになったのは正解でした。というのは広告業は儲けの単価が高いこともあり、商品としてクライアントに渡すまでに、先輩コピーライターが徹底的に赤字を入れてくれるんですね。当時は自分の出来の悪さに落ち込んだり、トイレの個室で涙をこらえたりしましたけど、その「地獄の特訓」があったからこそ、今も書く仕事ができているんだと思います。

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2 Youは何しにその国に?

私はコピーライターとして楽しくかつ忙しく仕事をしていたんですが、一方で専業主婦だった家内は、少なくとも平日はほぼ一人で子育てを担当していたんですが。それが楽しそうであると同時に大変そうで……。

あるとき「ちょっと待て。仕事は一生できるけど、子育ては今しかできないぞ」と気づいたんです。「仕事は50年、子育ては15年」と。

じゃあ、本気で子育てをするために会社を辞めよう。で、最初は田舎暮らしでもしようと思っていたのですが、どうせ東京を離れるんなら、海外で暮らすのもいいかな、と。「いつかは海外で暮らそう」みたいな話は結婚当時から家内としていたこともあり。まあ、その「いつか」は「リタイアしたら」ってことだったんですけど、言葉も文化も違う海外で暮らすのは60歳を過ぎてよりも30代のほうがいいかと考えて決行しました。

まだ「イクメン」という言葉すらないころなんで、まわりの人たちは理解するしないという以前に、ただ唖然としてましたね。

 

3 ライターの仕事を始めたきっかけは?

その海外暮らしを始めたときです。日本語でコピーを書く仕事なんて、外国ではないことはわかっていたので、同じようにモノを書く仕事ということで、フリーライターになりました。

で、しばらくして小説家になりました。とはいえ小説家だけでは食べていけませんし、フリーライターの仕事もおもしろいので、しばらくは並行して続けるつもりです。

 

4 ライター以外の仕事はしていますか? それはどんな?

小説家とライターの仕事以外はしていません。

小説家になったきっかけというのは、そのころフリーライターとして本を出してもらっていた新潮文庫の担当者が定年退職されて、引き継がれた編集者が「何か企画はありますか?」と訊いてきたんです。で、「じつは小説も書いていて……」という話をしたら、「今は管理職の仕事が忙しいですけど、もともとは文芸編集者なので見せてください」と言ってくれて、これ幸いと原稿を渡したんですね。

その原稿は、デビュー作となる『悠木まどかは神かもしれない』に出てくる「マッテルバーガー長原店」を舞台として、様々なお客さんの悩みを篠原店長をはじめとするスタッフが解決に乗り出す……のだけど、まあやっぱり空回りして、でも結局は悩んでいた本人たちが気づくヒントくらいは結果的に与えているという短編4つをあわせた連作短編です。そのときのタイトルは『100円チーズバーガーズ』。あのころのハンガーガー店って100円でハンバーガーが食べられてミルクシェイクが飲めて、社会的弱者とまではいわないけれども「今のところうまくいってない人たち」のたまり場みたいになっていて、それはそれで素敵な場所でした。で、そんな人たちを応援するような話を集めたんです。

編集者はすごく気に入ってくれたのですが、「短編集はそもそも売れない。しかも新人のデビュー作では絶望的。どれか一つを長編にしては」というアドバイスをもらって……。4つのうちどれを長編にするか迷ったのですが、結局小学生たちを主人公にしたものにして、完成したのが『悠木まどかは神かもしれない』です。

 

『悠木まどか』表紙

この原稿ができたときに初めて教えてもらったのが、「新潮文庫は小説の持ち込みは受け付けない」という内規。「必ず出版します。信じてください。でも前例のないことを通すので、かなり時間がかかります」と宣言されました。感激しながらも「いや、そんな内規があるのによく『原稿を見せてほしい』とおっしゃいましたね」と素朴な疑問をぶつけると、「まさか自分が内規を破ってでも出版したいと思うレベルの原稿を渡されるとは思わなかったので……」とのことでした(笑)

その宣言通り、原稿を渡してから出版決定まで1年以上かかりました。そのときの編集者根回しがなかなかの感動ストーリーなのですが……これはまたいつか別の機会でお知らせします。

 

5 世界一好きな場所はどこですか?

日本のあちこち。山でも川でも湖でも都会でも。「じゃあなんで海外に住んでるんだ?」というツッコミが来そうですが、恋い焦がれてたまに見るのもいいかなあ、と。「ふるさとは遠きにありて想うもの」ですね。

だけど、東京は音が多くて疲れます。人の多さよりも、私の場合音の多さがボディブローのように利いてきて……。カラダがもう「大都会仕様」ではなくなっている気がします。

 

6 いちばん好きな小説はなんですか?

自分の2作目の『オセロ●○』です。地球最後の日に自分一人だけで過ごさなければいけないとしたら、これを読みます。

『オセロ●○』表紙

何十回も書き直したから当然何十回も読んでいるんだけど、いつも同じところでウルッと。メインストーリーとは全然関係ないところなんですが……。

 

7 会ってみたい人は誰ですか?

とにもかくにも次の小説を出してくれる編集者の方

これは自分のせいなのですが、今まで商業出版した3冊の小説はすべて初版で止まって、増刷がかかっていません。そのような「売れない小説家」の場合、すでに小説を出してくれている版元さんからは「2冊目」を出せないのです。ご存知のように出版不況なので、「数字」が悪いと、営業との会議が通らないそうです。内容うんぬんよりも、ただ「数字」の問題。

昔なら「一回ウチから小説を出したからには、売れようが売れまいが3冊くらいは何があろうと世話してやる」というパトロン気質が出版社にもあっただったそうですが、今はそうではなくなったとのこと。これは新潮社の編集者が、私をデビューさせると決めたときに教えてくれた話です。

ただその編集者は「2冊目以降面倒を見られないかもしれない代わりに、知り合いの編集者を紹介する」と。実際に角川春樹事務所の方を紹介してくれて、その方に認められて『オセロ●○』を出版することができました。

ちなみに3冊目の『日本レンタルパパの会』(祥伝社)は、『悠木まどかは神かもしれない』を読んだ編集者の方が声をかけてくれてできたものです。まだ若い編集者なのですが、がんばって会議を通してくれました。

『日本レンタルパパの会』表紙

まあ、とにかく。そんなわけですでに自分の小説を出してもらっている版元からは出せないということで、別の出版社に相談して、編集者は「おもしろいから出す!」と太鼓判を押してくれたのですが……数週間後、「竹内さんの以前の著作の売り上げが悪いので、営業会議で通らなかった」という報告をいただくことが2回続きました。ここでもまた、以前出した本の「数字」の壁!

まあ、売れていないのは私のせいだし、「1社で1冊しか出せない」という出版不況は編集者のせいではないし、その出版不況を恨んでも仕方がないし……。

そんなわけで「原稿が面白ければ出してやる」といってくださる編集者の方と会いたいです。

 

それ以外で会いたい人たちというと、SEKAI NO OWARIのみなさんです。『悪魔と天使』とか『ドラゴンナイト』などの歌詞の内容が、自分が昔から思っていたけど、端的に表現できなかったことなので。

そして彼らも「世界や未来を少しでも良くしたい」と思いながら活動しているように見受けられるので。

 

8 趣味や余暇の過ごし方を教えてください。

アマチュアチームでサッカーをしたり、山歩きをしたり、体を動かしています。あと、バスタブに浸かりながらのんびり小説を読みます。

暖かい時期はベランダに出て「夕焼けビール」。4時半ころから風呂に入って、5時半ころからビールを飲み始めるっていうと、「ふざけるなっ」と非難されかもしれませんが、たいてい朝5時ころから働いている朝型人間なんです。午前中のほうがクリエイティブなことができるし、何より1日の中にも「オフの時間」をキチンと取りたいので。

 

9 仕事場はどんな感じですか?

自宅の自分の部屋が仕事場です。4人掛けのダイニングテーブルを執筆机として使っています。

仕事場らしくないのが、クイーンサイズのベッドもあること。夜もそこで寝ています。変な時間にふとアイディアを思いついて、ガバッと起きて執筆を始めるときがあるので、誰かといっしょの部屋ではなく自分一人で寝起きしています。

逆に小説の執筆が佳境に入ると、ふと眠くなる時があるので、仕事部屋にベッドがあるのは便利です。集中しているのに眠くなるって変な話だと思われるかもしれませんが、たぶん小説を書いているときと夢を見ているレム睡眠のときの脳波って似ているんじゃないかと思います。

 

10 使っているSNSはなんですか? いつから?

フェイスブックだけです。だけど毎日は観ていないですね。1ヵ月くらい全然みなかったこともありました。今は離れて住んでいる家族と電話機能をつかってやりとりするために、よく開いていますが……。

ツイッターも少しやってみたのですが、物を書くのが仕事の人間が気軽につぶやくのもどうかと思って休止中。オッサンがインスタっていうのもねえ……。

基本的にはSNSはあまり好きではないです。「仕事からリタイアした人が、わざわざ出かけずとも昔の仲間と連絡を取りあえる」という意味ではとても素晴らしい道具だと思いますが、未来がある若い人たちは本を読んだり勉強したり考えごとをしたり、「吸収と発酵」に時間を使ってほしい気がします。身近な人との「発信と返信」という小さな世界に閉じこもるのではなく

 

11 生まれ変わったら何になりたいですか?

「シンガーソングライター」です。自分で曲も歌詞も書ける人には嫉妬します。

私はそもそも「世の中を少しでも素敵にできたらなあ」と思って小説を書いています。だけど小説は読む人が少ないし、何度も読まれないですよね。

ベストセラー小説でも日本国内で300万部、文庫を入れてもせいぜい1000万部。回し読みとか古本とか図書館貸し出しを入れてもせいぜい3000万人程度にしか読まれていない。でも日本の人口のほぼ全員が知っている曲って結構ありますよね。ビートルズの有名な曲ならたぶん世界の50億人くらいの人が知っているし。

それからどんなに好きな小説でも10回読み返したことがある人って少ないと思うんです。100回なんで絶対ない。でも100回聞いた曲なんてザラにあります。1000回だって普通かもしれない。

それと「私が文字だけで勝負しているのに、アイツらは曲までつけていてズルい」とよく思います(笑)

あと、ズルいと言えば「画家」もズルい。3秒で観た人を感動させられますからね。小説っていうのは、伝えるのにおそろしく時間がかかる手法ですよね。

なんだ愚痴みたいになってきましたけど、でも小説にしかできないこともあるし、小説がいちばん好きではあります。

 

12 最後に一言!

電子書籍の自費出版で、『悠木まどかは神かもしれない』(新潮文庫)の続編『悠木ジョシは神かもしれない』と、『オセロ●○』(ハルキ文庫)のスピンオフ作品『僕の親友はスカートをはいている』を、とりあえず一年間はBOOK WALKER限定で、半額セールの300円で販売してきました。

ただあと少しでKindle版を出すと同時に、当初考えていた600円に戻すつもりです。ご購入をご検討の方、お早めに。

『僕の親友はスカートをはいている』のほうは、『オセロ●○』の1年前。翔子ちゃんはまだ登場せず、「僕」とドラを中心にした話で、作品の感じも大きく違っています。

一方『悠木ジョシは神かもしれない』は『悠木まどかは神かもしれない』の完全な続編で、5ヵ月後の話。『悠木まどか~』を楽しんでくださった方は、ぜひ。悠木ジョシ、無茶苦茶かわいいですよ。

 

話は少し飛んで、時々「竹内さんの小説のモデルは誰ですか?」とか訊かれますが……いません。いるわけないでしょ! いたらどんだけリア充なんですか! そんなリア充は、小説なんか書かないです。たぶん小説を書く人間は鬱屈したものを爆発させるんじゃないかと思います。……いや、私だけかな?

『悠木まどかは神かもしれない』と『悠木ジョシは神かもしれない』のアインシュタイン進学会は、昔通っていた四谷大塚進学教室をイメージしました。あのころは勉強一筋で、それはそれで充実していて、勉強することも一生でいちばん楽しんだ時期だけど、中学と高校で「オレの夢って東大に入って、いい会社に就職することなの? それでいいの?」とずっと問いかけてきたへの答えを描きたいと思ったのです。

『悠木ジョシは神かもしれない』表紙

『オセロ●○』と『僕の親友はスカートをはいている』の舞台は、中学と高校時代を過ごした筑波大学附属ですが、翔子ちゃんのようなかわいい後輩とのラブストーリーも、ドラみたいな女子の親友もいなかったです。まあ、かわいい後輩と強い同級生との間で揺れる三角関係という究極の妄想小説ですね。

『僕の親友はスカートをはいている』表紙

ただ、附属中学のときの全校集会で「附属高校の女生徒が露出狂に遭ったので注意してください」みたいな話があって、それが妙に記憶に残っていて、ストーリー作りのヒントになりました。

『日本レンタルパパの会』の「第3章 関西弁研究会」の大学時代のパートは、これまた通っていた慶應義塾大学文学部の新入生時代の気分を思い出しながら書きましたが、そんな研究会をつくったことはもちろんありません。美和ちゃんみたいな素敵な女の子との出会いも。……なんだか恋愛に恵まれない青春時代の辛さを吐露している感じになってきましたが。

ただ社会人になってから知り合って結婚した家内が、会社では標準語で通していたけどじつは関西人で、結婚してから家ではずっと関西弁。で、基本的に東京の人間である私が知らない表現などがときどき出てきて、そういうのもストーリーを膨らませるヒントになったと思います。本格ミステリー一辺倒の彼女は、私の作品、全然読まないのですが……。

それから芦屋の描写も、広告代理店で働いていたときに実際に大阪支社勤務になって5年間住んだことが大きなヒントになっています。

当時は東京から離れるのが本当に嫌だったのですが、今になって思えば、いろいろな経験をしておくことが小説家には重要な気がします。取材したりサイトで調べたりしてもある程度は書けるのでが、実体験からにじみ出てくるものとは違うので。

そういう意味では、今まで書いた小説でモデルとなった人物も出来事もないし、これからもそういう小説は書かないとは思うのですが、自分が生きてきたすべてが影響しているとは思います。今まで出会ったいろいろな人にも感謝したいです。

【文:海外書き人クラブ】

 

(「海外在住ライターを使ってみたい」と思われている方。「海外在住ライターになりたいと思われている方。耳寄りな情報があります。ぜひこのページの下のほうまでご覧ください)




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