お世話係インタビュー

「お取り引きをお考えのみなさま。
海外書き人クラブについてお話します」

海外在住ライターが集まった組織というのは、非常にユニークです。設立のきっかけなど教えてください。

 設立した2000年当時はユニークだったんですけど、じつはこれ、近頃流行りの「クラウドネットワーキング」なんですよ。それを一昔以上前に始めたんですね。ようやく時代が海外書き人クラブに追いついてきたと、よく古くからの得意先と冗談を言い合っています(笑)。

 つくったきっかけは……単純に仕事がほしかったからです。私は日本で勤めていた広告代理店を1999年に辞めて、オーストラリアに「子育て移住」しました。当時はもちろん「イクメン」なんて言葉もなかったので、私が「イクメン0号」です。これに関しても、ようやく時代が私に追いついてきた、ですね(笑)。

 移住してフリーライターになったはいいが、そもそも畑違いの広告業界から出版業界に飛び込んだから、知り合いも少ない。それほど多くの仕事がなかったのですが、書きたいことはたくさんある。でも「オーストラリアのことを書かせてください」とお願いしても、「ウチの雑誌にはそんな枠がない」。それと暗に「オーストラリアの情報だけではそれほど注目を浴びないし」と言われることもありました。

確かにアメリカやイギリス、フランスほどは注目度がないですね。

じゃあ、どうしたらいいか。そこで思いついたのが「各国のライターを集める」というアイディアです。

「オーストラリアでの子育てのことを連載で書きたい」ではなく、「世界の子育て事情をリレー連載で紹介していきたいんです」と提案すれば、「それならおもしろそうだね」と編集者も言ってくれるだろう。

だけどアイディアだけを出しても、編集者は「でも世界各国のライターなんて知らないしなあ」と思うでしょう。そこで「ご安心ください。世界○ヵ国に在住する日本人ライターを集めた組織をやっているんです!」と胸を張れば、仕事が獲得できるとひらめいたんです。



そのアイディアはわかりますが、どうやってライター仲間を集めたのですか? 世界各国に知り合いがいないのは編集者の方々だけでなく柳沢さんも同じですよね?

そうですね。私だって知らない。でも世界中のライターを知っている知り合いがいたんです。当時、日本航空の機内誌『ウィンズ』(※注 現在は『スカイワード』に名称変更)に毎月6枠ほどある海外情報のコラムを何度か書かせていただいていたのですが、その欄の担当編集者ならたくさんのライターを知っているはずだ、と。

で、その人に海外書き人クラブのアイディアをメールすると、こんな返事が来ました。「柳沢さん。それはすごいアイディアだ。私自身は20ヵ国以上のライターを知っているけど、全然知り合いがいない編集者がほとんどだろう。そういう人が海外もののおもしろい企画を思いついても実現する方法がなくて、ボツにするしかなかった。でも海外書き人クラブがあれば様々な海外企画ができる。編集者にとっても福音ですよ、そのアイディアは」。それで彼は知り合いのライターの中から「これぞ」という人たちを紹介してくれました。

そう言ってもらえて、「ああ、編集者も心のどこかでこういうのを求めていたんだな」と自信がつきましたね。

では最初からとんとん拍子に仕事が舞い込んできたんですね?

いや、クラウドワーキングという言葉が一般的になった今なら問題ないのでしょうが、当時は斬新すぎたんでしょうね。「それでうまくいくかなあ」と皆さん、半信半疑だったんだと思います。「どこかの仕事がうまくいったという実績があれば、上司を説得できるんだけど……」という感じでした。

最初のリレー連載が始まったのは設立の1年後の2001年4月です。株式会社アルクさんの『イングリッシュジャーナル』という月刊誌で、「海外イングリッシュ調査隊が行く ~英語は本当に国際語?」というタイトルで、世界各国でどれくらい英語が通じるのか、そしてその国の英語の特徴はどういうものなのかを2年間、24ヵ国続けました。

それが営業材料となって、次第に仕事が舞い込むようになりました。たとえばその2001年の年末には朝日新聞社さんの住宅関連のサイトで「住まいのヒントは世界にある」という連載をスタート。これは途中から「世界のウチ」という名称に2012年の年末まで、12年間続きました。

その後朝日新聞社様や関連会社である朝日新聞出版様とは、『AERA』の小中学生版である『ジュニアエラ』の創刊準備号(※注 2009年2月発売)から「子ども地球ナビ」という連載を続けたり、海外書き人クラブ所属の20ヵ国の日本人ライターによる『値段から世界が見える!』という書籍を作ったりと、いいおつきあいが続いています。

その朝日新聞社をはじめとして、各業界の一流企業が取り引き先です。海外書き人クラブは会社組織ではないのに。

確かに出版業界は当然として、新聞なら朝日新聞様、広告なら博報堂様、PRなら電通パブリックリレーションズ様、飲食店情報のポータルサイトのぐるなび様など、各業界を代表する得意先と直接取り引きすることも多いです。

それでも私たちの実績と得意先を見れば、安心していただけるようです。

海外書き人クラブの今後のヴィジョンを教えてください。

カメラマンなどもいますが基本的にはライターを集めた組織なので、今までは出版社とのおつきあいが多かったのですが、この3年ほどの間に様々な業界とのつきあいが増えてきました。要は多角化ですね。

企業が持つ「自社サイト」や「オウウンドメディア」への記事や情報の提供。またSEMなどを駆使するコンテンツマーケティング会社との取引も増えると思います。私自身も日本にいたときは広告会社に勤めていたので、「マーケティング的な視点」や「クライアントニーズに応えるという姿勢」を持っていますから、安心しておまかせいただけると思います。

それから電子書籍の出版事業を立ち上げます。これはBOOK☆WALKER様に勤める知り合いから、「世界80ヵ国のライターが集まる海外書き人クラブは、ものすごく多くの知られざる情報を持っているはず。情報の宝庫だ。それを埋もれさせておくのはもったいない!」と言われたことがきっかけです。「ああ、なるほどな」と目からうろこでした。

もう16年もこの組織をやっているのに、私には「出版事業」というアイディアが思い浮かばなかった。

今後も外部の人たちにあれこれ活用してもらいながら、もっともっとおもしろいことを仕掛けていきたいと思っています。

海外書き人クラブお世話係・柳沢有紀夫に連絡 柳沢有紀夫オフィシャルサイトへ