【ベトナム在住ライター直伝】新型コロナをねじ伏せた3つの理由

世界中で感染者が激増している新型コロナウイルス。その被害を圧倒的に抑え込んでいるのが、実はベトナムです。11月25日現在で累計感染者数は1316名、累計死者数は35名。なぜそんなことができたのか? 海外書き人クラブ新会員・ベトナム在住ライターの、高橋マサシがお伝えします。

ベトナムの新型コロナ感染状況

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まず、ベトナムの感染状況について説明します。感染者が初めて確認されたのは2020年1月23日。その後、海外からの外国人と帰国するベトナム人を中心に感染者が増えていきます。

ただ、感染者数は1日1~2人程度で、2月中旬からはゼロの日が継続。その潮目が変わったのが3月に入ってからでした。首都ハノイ市の病院と最大の経済都市ホーチミン市のバーがクラスターとなり、感染者が増え始めたのです。

私はホーチミン市に住んでいます。実はバーのクラスターの原因は航空会社の欧米人パイロットで、感染していたにもかかわらずそのバーで騒いだんですね。それが周りのお客に感染して、その知人に感染して……。申し訳ないけど、アホかと思いました。

それでも1日の感染者は多くて十数人。4月の半ばには再び収束して、1日の感染者が0~1人程度の日が続きました。誰もが新型コロナの抑え込みに成功したと思っていました。

「第2波」が襲ったのは7月末です。第3の都市と言われるダナン市の病院がクラスターとなり、入院患者、通院患者、その家族、医療従事者などに感染が広がったのです。

クラスターとなった病院は複数あり、現在の累計死者数はこの時に亡くなった方々がほとんどです。腎不全、心不全、糖尿病、高血圧などの既往歴がある患者ばかりでした。感染はダナン市の周辺都市やハノイ市、ホーチミン市でも発生するようになります。

1日の感染者数は多い時で1日40~50人。欧米では1日数千~数万人の感染もありますが、元々抑え込みに成功していたベトナムなので、「これはやばい」と話し合うほどの数字でした。

その後、8月下旬には収まり、現在は毎日数名程度の感染者が確認されています。ただ、そのほぼすべては海外から帰国するベトナム人やビジネストラック(短期出張者が特別に入国許可される制度)で来る外国人で、11月25日現在、83日連続で国内の新規市中感染者は出ていません。

私たちは外出時にマスクをするくらいで、3密の回避やソーシャルディスタンスの必要もなく、飲食店や映画館の閉鎖もなく、以前とほぼ変わらない生活ができています。

ベトナムはどのようにして新型コロナを抑え込んだのでしょうか?

 

理由1:ベトナム政府の即断、即決、即実行

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理由の第一番目に挙げたいのがベトナム政府の対応です。何しろ行動が早い!

1月23日に中国人2人の感染者が初めて確認されると、25日には中国からの入国者に健康申告書を義務付け、31日にはすべての中国の感染地域を結ぶフライトを停止しました。

2月に入るとイベントや観光名所訪問の制限、外国人の入国時の検査、ビザ免除の停止、感染者が出た村全体の集団隔離、学校の休校などが始まり、3月は公共の場でのマスク着用の義務化、全ての外国人の入国停止、飲食店の営業停止などが始まります。

そして4月は1~15日、ハノイ市やホーチミン市など高リスク都市で「社会的隔離」が実施されました。食料や薬品の調達、緊急の場合を除いての外出禁止です。

「ロックダウン」ほど厳しくはないのですが、私もほとんど家にこもり、食事はデリバリーで済ませて、週に3日ほどは自重筋トレ、オンライン飲み会を始めたのもこの頃です(笑)。

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その後感染者は減りますが、7月末からの第2波では、ダナンと周辺省で再び社会的隔離が始まります。加えて、感染者の行動の徹底的な追跡と、接触者など感染可能性のある人の検査。移動の制限も始まり、国内旅行なども中止となりました。

ベトナムは社会主義国であり、国会や議会を通さず国民に指示が出せる強制力があります。しかし新型コロナ禍では、政府首脳が即断、即決しないとこの「強権」は活かせません

スピード感のある対策を次々に打ち出せたことが、ベトナムが感染者を抑え込んだ理由でしょう。

 

理由2:愛国心でいっぱいのベトナム人の団結

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政府がいくら強制力を行使しても、国民に反対されたら実現できません。新型コロナ対策が成功した2つめの理由は、国民が政府を信用して積極的に協力したことです。

様々な調査からも明らかですが、ベトナムは愛国心がとても強いんですね。「政府を信用しているか」との質問に9割前後の国民が「Yes」と答えており、それはこんな話からも推察できます。

世界的なカフェチェーンの「スターバックス」が進出に失敗した唯一の国が、ベトナムだそうです。スターバックスが外国に進出するとその国で高いシェアを取りますが、カフェ大国のベトナムではできなかった。それはベトナム人が地場のカフェやカフェチェーンを好んだからだというのです。

また、社会福祉が未熟なベトナムでは、家族や隣人同士での助け合いが一般的です。その気持ちが新型コロナ禍で生み出したのが、「コメATM」でした。

これは生活に困った人向けに、無料で1回3kgのお米を提供する自動配給機です。レバーを引くとお米がざざっと落ちてくるマシンで、このボランティア活動は大都市から地方へと広がりました。

同じような試みが「0ドンハッピースーパーマーケット」です。ドンはベトナムの通貨の単位なので、「0円」と同じ意味です。失業していることなどを申告すると、店内の食料品、衣料品、生活用品など計10万ドン(約500円)分の商品を無料で受け取れます。

500円では少ないようですが、地場の食堂のランチが3~4万ドン(150~200円)ですから、それなりのものが受け取れます。

社会主義という制度以上の国との信頼感、経済急成長の中で残る助け合いの精神。これらがうまく作用して新型コロナを抑えたのだと当地で感じます。

 

理由3:徹底した感染者の管理と消毒

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もう一つ理由を上げれば、感染者の管理と感染場所の消毒が徹底していることでしょう。

感染者が見つかるとホテルなどの施設で2週間隔離されます。同時にF1(感染者)の行動が調べられ、接触したF2、F2が接触したF3、そしてF4、F5と追跡されて、全員が検査を受けて、感染が見つかれば隔離されます。1日に何度か検査を受けて、陰性になれば自宅に戻ります。

同時に感染者が立ち寄った場所、自宅マンションやレストランなどは消毒されて、しばらく閉鎖されます。マンションでは感染者の部屋があるフロアのすべての部屋が消毒され、その住民も2週間外出できなくなります

私の知り合いもその対象になりました。同じフロアに住むベトナム人が感染して、2週間一歩も外に出られず、検査を受け、食事は主にデリバリー。その様子をSNSにアップしていました。

ちなみに感染者にはナンバーが振られます。No.***、氏名、性別、年齢、住所、感染経路、感染場所といった情報で、それが一元管理されるわけです。

日本や欧米では「感染経路が不明」というケースが多いですが、ベトナムはそれを徹底的になくそうとしており、現在まで成功していると言えます。

ただ、中国と同じ社会主義国ですから、感染者が増えてもそれを隠蔽していることはないか。発表された数字より実際の感染者は多いのではないか。

そんなことを想像して、ベトナム人の友人に聞いたところ、「それはまずない」と言われました。国への信頼感が理由ではないようですが……。

「感染者が見つかると自宅に消毒車両が来て、防護服の人たちがホースで派手に消毒液を撒くでしょう。すると近所の人たちがその写真をSNSに上げるから、隠すことなんでできないよ」

 

ベトナムはこれからどうなる?

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ホーチミン市で暮らす私からは、現在のベトナムは新型コロナを終息させたようにも見えます。

安心したのかマスクをしない人たちが増えて、街では普通にショッピングや食事をしています。

しかし、政府が「第3波」を警戒していることは明らかです。最近では感染対策違反の罰則が厳格になりました。

例えば、公共の場でマスク着用義務違反は罰金が10倍の100万~300万ドン(5000円~1万5000円)になり、罰則には医薬品などの便乗値上げ禁止が追加されて罰金は2000万~3000万ドン(10万~15万円)です。

男性4人で日本居酒屋に行って、飲んで食べて、支払いは1人50万ドン(2500円)くらい。ベトナム地場のレストランなら1人20万ドン(1000円)程度。罰金がどれほど高いかわかるでしょう。

毎年日本へ一時帰国していた私ですが、残念ながらしばらくは無理だと思っています。なぜなら、日本に行けてもベトナムに戻る申請の準備に2ヶ月ほどかかり、入国後も2週間の隔離があるからです。

それに、今の日本は新型コロナの感染リスクが高すぎます。毎日数百という感染者が出ながら、経済優先の方針はわかるものの、「Go To 〇〇」などベトナムでは考えられません。

来年中に新型コロナが終息することを願います。

【文・写真 海外書き人クラブ 高橋マサシ】

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