【災害対策】洪水と床上浸水のあと何をすべきか4~次の被災者のために記録する

洪水で壁に空いた穴

経験者が語る床上浸水のあと、実際に何をしたか、何をすべきか、何を思ったか」。4回目の今回は「ボランティアの方々に提供していただいて嬉しかったこんなもの」と「真夜中のある事件」などについて書きます。

こんにちは。海外書き人クラブお世話係、オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。

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1 夜中に目覚めて……

1月17日月曜日の午前2時。ろうそくの火を頼りに書いています。
1日中肉体労働をして疲れ切っているので夜8時前に眠くなり、ベッドに入ってもすぐに寝るのですが、昨日に引き続き、今日も夜中に目が覚めてしまいました。
昼間の片付け作業中、水を頻繁に飲むようにしているのですが足りていないのか、はたまた昨日はぬるい缶ビール2本でベッドに直行したせいか、尿意をもよおして起きたわけではありません。
でもとりあえず起きたついでにとトイレに行きました。

入って、電気のスウィッチを押して、「あれ、おかしいな」。すぐに停電であることに気づきましたが、懐中電灯をこの手に持って入ったのにも関わらず、スウィッチをつけようとしてしまうなんて、人間の習慣とは恐ろしいものです。

洪水のあと2回目のゴミ出し

洪水のあと2回目のゴミ出し。まだまだこんなにゴミが出ました

2 高圧洗浄機とボランティアが到着!

昨日は朝6時半ごろから作業を始めました。
しばらくすると、近くの小学校から一昨日のチャールズとは別の人がやってきて、「まだ高圧洗浄機は必要ですか?」と訊かれました。
前日、普通のホースとほうきで泥はできるかぎりかきだしましたが、それでもうっすらと残っています。「一通り洗い流したのですが、まだ不充分なので、なんとかお願いできますか」とありがたくご好意を受け取ることにしました。

「人手は要りますか」とボランティアを名乗り上げてくれる見知らぬ人たちに対しては、「わが家にはティーンエイジゃーの男の子が2人いるので、だいじょうぶです。あちらのほうにお年寄りだけの世帯がいくつもあるので、そちらに向かってください」とお願いしています。
本当は人手はのどから手が出るほどほしいのですが、こういう状況なので、自分たちのことばかりは考えていられません

ただ高圧洗浄機だけは話が別で、これがないと掃除はなかなか完了しません。
おそらくこのあたりのボランティアを統括している小学校のPTAでも、お年寄り世帯や被害のひどい世帯からと優先順位をつけていて、前日は来られなかったけれど、ようやくわが家に順番が回ってきたのだと思います。

待ち焦がれた高圧洗浄機がやってきたのは、約1時間半後。高圧洗浄機を扱う男性1人と女性2人の3人組です。
やってきたユート(ピックアップトラックをオーストラリアではこう呼びます。「ユーティリティー・ヴィークル」の略だと思うのですが)の車体には「○○ STEEL」と書かれていたので、普段は鉄を扱う仕事をしているようです。高圧洗浄機も、たとえば建築現場などで鉄をくみ上げた後、清掃用に使うためにもっているのだと思います。
彼らはもう何軒、いや何十軒と清掃作業をしているせいでしょう。作業そのものも、指示の仕方も的確です。
「こっちから、こう水を出すから、こう部屋からかきだして。そしてもう一人は、部屋から出てきた水が別の部屋に入らないように、こういう方向にほうきを使って」
といった具合です。

室内の床の掃除が終わり、男性が外の壁を高圧洗浄機で洗い流している間、女性たちは壁の掃除を手伝ってくれました。
床上1メートルほどの高さまで浸かったので、そこが汚れているのですが、タイルの床の泥と違い、
浮遊物がこびりつき、泥もしみこんでいるので、いくらパワー・プレッシャード・ホースといえどもそれだけでは汚れはとれず、洗剤をつけたスポンジで磨かなければならないのです(ところがこの壁拭きは結果的に無駄作業だったことがあとで判明します。ボランティアの方々には本当に申し訳ないことをしました)。

洪水で壁に空いた穴

洪水で壁に空いた穴。でもあとで、自らもっともつと大きな穴を開けることになりますが、その話は次回以降で

早めに仕事を終えたホースの男性が、「何かチャージしたいものがあるなら、発電機でやってあげるよ」と言ってくれたので、今や生命線と呼んでもいい携帯とパソコンをお願いしました。
そうした精密機器を発電機でチャージしていいものか一抹の不安がないでもなかったのですが、他の人にもやっているような口ぶりだったのでお願いしました。
災害で停電になったとき、携帯などの充電も大きな心配事の一つです。

時計を見ていないのでよくわかりませんが、おそらく約2時間後。彼らは帰ることになりました。
普段を仕事を聞くと、やはり建築用の鉄骨やら鉄筋やら、鉄関係全般を扱う仕事とのこと。私は名刺をもらい、「何か鉄が必要になったら依頼するね」と言ったのですが、わが家の損傷は壁に穴が開いたくらいなので、改装で必要なのは鉄ではなく板のほうかもしれません。

妻がお礼として「冷えてないけどすみません」とビールの小瓶6本ケースを渡しました。してもらった仕事はそれどころではないのですが、こういうのは気は心でしょう。
とにかく、今回の洪水で一躍、泥まみれになった家の掃除の専門家となった彼らのおかげで、かなり早く室内の掃除は終わりました。

 

3 ご近所の人たちが提供してくれた食事

昼食は、浸水しなかった近所の人が無料でソーセージ・シズルを提供しているというので、ありがたく頂戴しました。
「ソーセージ・シズル」というのは焼いたソーセージ(フランクフルトよりも長くて細い)を細切りの食パンに載せて食べるもので、オーストラリア人の国民食とも言えるものです。
ただレストランはもちろん、ファーストフードのメニューにはなく、彼らが大好きな家や公園でのバーベキューでの定番メニュー。それとホームセンターや家電店の前を借りて、学校やらスポーツクラブがファンドレイジング(資金集め)のために、一つ1ドル50センチ(約120円)くらいで売ることも多いです。好みで焼いたオニオンをトッピングさせることもあります。
好みと言えば、ソースはトマトソース(ケチャップ)の人も多いですが、バーベキューソースのほうがむしろ人気です。

洪水と床上浸水という本題とは全然関係のない「ソーセージ・シズル」のことを延々と書いたのは……このとき食べたソーセージシズルが本当においしかったからです! 疲れたカラダに、人の暖かさがしみました。

 

4 「おやつの盛り合わせ」に感激

ご近所の「ソーセージ・シズル」の提供もですが、ボランティアの人たちが車で道を回り、ペットボトルの水や飲み物を配ってくれるのもありがたいことです。特に冷たい飲み物は停電中のわれわれは家では飲めないので、まさに砂漠の中のオアシス!

それから、午後3時ごろにはおやつを配ってくれる女性がいました。お皿上に、スイカやクッキー、一口サイズのケーキをいろいろ載せて、ついでに冷たいコーディアル(フルーツ味の砂糖水。カルピスのように、通常は原液で売っていて、水で薄めます)も使い捨てコップに入れてくれました。

電気もガスもない状態だと、携帯ガスコンロでの調理になるので時間もかかります。そして掃除や片付け作業をしていると、食事も水分をとることもついついおろそかになってきます。

こうして近くで提供してくれたり、配りに来てくれたりするのは本当にありがたいです。「避難センターにサンドウィッチがあります」と言われても、なかなか取りに行けないのです。

特にフルーツやケーキをもらってわが家の女性陣は感激していました。

配ってくれたのは女性ですが、さすがは女性ならではの心配りです。男だとついつい「食事」のことばかり考えてしまいますが、そうしたスウィーツの補給も、気持ちを高めるために大切なことかもしれません。栄養的なことよりも、たのしさという意味で。

日本でも何か災害が起きたときに、スウィーツの提供も忘れないでほしいと思います。

 

5 あるとうれしい冷たいビール

あっ、それと1日の終わりには冷たいビールがあるとうれしいかな。これは呑み助ならでは発想ですが、そういうたのしみも必要なのです。ただただつらい作業のときには。

「被災者の救済は、彼らの立場になって考える必要がある」とよく言われますが、じつそれは非常にむずかしいことです。私も被災者になって初めて気づいたことがいくつもあります

だから「被災者のくせに望みが高すぎる」と言われるかもしれませんが、これから必ず現れる別の災害の被災者のために、あるとうれしかったモノやサービスをきちんと記録に残したいと思います。

「冷たいビール」も含めて。……しつこいですね。

とにかく。
ボランティアの人たちの名前をすべて聞くことはできないし、お返しもなかなかできません。ただ、こうして日本のみなさんに、オーストラリア人の精神を伝えることが、とりあえずのせめてものお返しになると考えるようにしています。

 

もちろん、同胞である日本人も、助けてくれます。

昨日は友人が熱いシャワーに招いてくれました。特に妻と娘は水のシャワーに閉口していたので、喜んでいました。同時に発電機ではフル充電できなかった携帯とパソコンも追加充電させてもらい、ネットにもつながせてもらえました。

 

6 世の中に警察が!

さて、じつはこの手記は真夜中にランタンの光を頼りに綴っていたのですが、書き終えて読み返していたら、突然サイレンが聞こえ、パトカーがわが家の前に停まりました。
警官が二人、最初は通りの向こうの家に入ったのですが、それを二階から見ていたら今度はこちらにやってきます。と思ったら、突然懐中電灯で私の顔を照らされたのです!

いやいや、何が起こったのか。とにかく窓を開けると警官が話しかけてきました。
「ここに住んでいる人ですか」
「はい」
「ちょっと降りてきてくれますか」
下に降りて、門から出ると、通りの反対側に住む人が出てきて、「お宅の中を懐中電灯を照らして歩いている人がいたので、泥棒かと思って通報した。お宅の駐車場に車が見当たらず、出かけていると思ったので」と言います。
「いや、まだ片づけ作業が終わっていないので、あそこに路上駐車しているんです」と答えて、持って行った懐中電灯で自家用車を照らして見せ、「ああ、そうだったのか」と納得してもらったのですが、警察からは職務質問を受け、名前と生年月日と電話番号を確認のために聞かれました。

何日も停電がつづいているときに、夜中にごそごそするのも考え物なのかもしれません。まあ、人生初の職務質問もいい経験かもしれませんが……警察のみなさん、余計な仕事を増やしてしまってすみません。

【文と写真 柳沢有紀夫】

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